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AI導入がなぜ失敗するのか? 多くの企業が見落とすAIの「理想」と「現場の現実」のGap。コールセンターのDX成功に不可欠な「最初のステップ」を、現場のプロが徹底解説します。
コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2025 in 東京
先週開催された「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス」は、まさにAI一色でした。
AIエージェントによる自動応対、リアルタイム音声認識、高精度な通話要約…。数えきれないほどのAIツールが並ぶブースを回り、私は大きな興奮を覚えると同時に、ある種の「強烈な違和感」も感じていました。
それは、AIベンダーが語る輝かしい「理想」と、日々ギリギリのリソースで現場を運営する多くの中小企業のセンター運営の「現実」との間に横たわる、あまりにも深い”Gap”(乖離)です。
AI導入で失敗する企業の「共通点」
なぜ、多くの企業がAI導入に踏み切れないのか。あるいは、高額な投資をしたにも関わらず、期待した成果が出ないのか。
今回のイベントで得た多くの情報と、私自身の現場経験から、その理由は明確です。
多くのAI導入プロジェクトにおける失敗例には、共通点があります。それは「目的や目標が曖昧なまま、なんとなく導入してしまう」「理想が高すぎて、何でもAIにやらせようとする」ことです。
最新のAIツールは、最新のスマートフォンに似ています。
どれほど高性能なカメラやプロセッサを搭載しても、それを使う私たちが「電話とSNSしか使わない」のであれば、その投資はオーバースペックであり、宝の持ち腐れです。
AIベンダーは「こんなことができます」という「理想の機能」を語ります。
しかし、彼らが決して語らないこと。それは、その機能を使いこなすための「現場の準備」です。
全ての変革の「前提条件」= 業務の可視化
今回のイベントで、どの講演でも(AI、離職防止、シニア活用など)テーマは違えど、その成功の「前提」として、暗黙のうちに語られていたことがあります。
それは、「① 現状の業務内容の調査・可視化・評価」です。
- どの業務をAIに任せ、どの業務を人(プレミアム対応)に残すのか?
- シニア層に活躍してもらうため、どのタスクを切り出すのか?(マルチタスクはNGです)
- オペレーターの「心理的安全性」を確保し、「納得行く評価体型」を作るための基準は何か?
これら全ての問いに答えるためには、まず「今の業務がどうなっているか」を、感情論や経験則ではなく、客観的なデータとして「可視化」することが不可欠です。
AIがCXを担う未来は必ず来ます。
しかし、そのAIを使いこなし、AIでは対応できないプレミアムな対応を担う「人(SV・オペレーター)」をどう育成し、定着させるかという「業務の最適化」なくして、DXの成功はありません。
「理想」を「現実」に着地させるために
多くのセミナーでは、残念ながら「失敗例」はほとんど語られませんが、成功事例の裏には、その何倍もの「うまくいかなかった導入」がある筈です。
その差は、ツールやコストの問題ではなく、ひとえに「自社の業務を正しく把握できていたか」という一点に尽きます。
AIの「理想」を、あなたのコールセンターの「現実」に着地させる。
その「Gap」を埋める「業務の可視化」と「人の育成」こそが、今、我々「現場のプロ」が取り組むべき最重要課題であると、確信を深めた2日間でした。
追伸:業界の最前線を行くリーダーたちとの対話
先日、私は業界をリードする2社のCS/HR責任者の方と対話する機会を頂きました。 そこで語られたのは、まさにこの記事で述べた「曖昧さの排除」と「仕組み化」が、いかに組織を劇的に変えるかという実証でした。 ここで、その貴重なインサイトの一部を共有します。
ケース1:某大手プラットフォーム企業の事例
〜「仕事のゲーム化」が生む心理的安全性〜
ある大手プラットフォーム企業の人事責任者(元CSマネージャー)の方は、かつて自身のチームで驚異的な定着率を達成した実績をお持ちです。 その秘訣は、マネジメントにおける徹底した「仕事のゲーム化」でした。
この方はオペレーターに対し、「しっかり対応しろ」といった抽象的な指示は一切出しません。 代わりに「呼量予測」「顧客の心情予測」といったゲームを提案し、その正解率をチームで楽しむ文化を作ったのです。 これにより、業務に対する「やらされ感」が消え、メンバーは楽しみながら自律的に動くようになったとの事です。
また、新人研修においても座学の詰め込みは行わず、グループワークを通じて「早期の成功体験(顧客に感謝される体験)」を積ませることを最優先しています。 これこそ、私が提唱する「具体的な行動の定義」と「成功体験の設計」の究極系と言えるでしょう。
ケース2:急成長中のウェルネスD2Cブランドの事例
〜AIと人の「完全な役割分担」によるプレミアム化〜
一方、AI活用で最先端を行くあるD2Cブランドでは、AIと人間の役割を明確に定義していました。 「24時間365日のトラブル解決」などの守りの業務は、徹底してAIと自動化ツールに任せる。 そして人間は、購入前の相談やブランドのファン作りといった、AIには不可能な「プレミアムな対応」のみに特化させようとしています。
この企業では、CS担当者を単なるSVやオペレーターではなく、「エンジニア的スキル(内製化スキル)」を持つ高付加価値な人材として定義し、「高賃金化」を目指しています。 「なんとなくAIを入れる」のではなく、業務を極限まで可視化した上で、「人がやるべき仕事」の価値を再定義している好例です。
これらの先進事例は、決して遠い世界の話ではありません。 彼らが実践しているのは、魔法ではなく「業務の可視化」と「人の育成・定着」という、泥臭いほど基本的なステップの徹底です。
「現場の現実」を見つめ、抽象的な言葉を捨てて具体的な仕組みを作る。 それこそが、AI時代に勝ち残る組織を作る唯一の「成功の鍵」なのです。
この記事を書いた人
コンサルタント永久 圭一keiichi Nagaku
債権管理業務に計15年、コールセンター事業者2社(計13年)に在籍
SVや地方センターや在宅業務センターのセンター長等に従事後独立
保有資格
DX推進パスポート
JDLA Deep Learning for GENERAL (G検定)COPCリーンシックスシグマイエローベルト
- コンプライアンス・オフィサー・消費者金融コース
- ビジネスキャリア検定(労務管理)






