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新人一人の離職コストは50万円 。あなたのセンターでは、年間750万円もの財産を失っているかもしれません 。その原因は「犯人探し」の文化です。損失を利益に変える「Problem思考」と、具体的な3つの改善アクションを提案します。
「またAさんが誤案内をしたらしい…」
「今月の目標未達は、明らかにBチームの動きが悪いからだ…」
コールセンターで問題が発生した時、あなたの頭に真っ先に特定の「誰かの顔」が思い浮かんでしまうとしたら、それは非常に危険なサインかもしれません。その無意識の思考こそが、現場の活力を奪い、改善の機会を潰し、組織全体を静かに蝕んでいくからです。
回は、多くの組織が陥りがちな、この深刻な罠についてお話しします。キーワードは、問題は「Bad(悪)」 ではなく 「Problem(課題)」である、ということ。この視点の転換こそが、あなたのセンターを「犯人探し」の不毛な文化から、「学習し続ける」強い組織へと生まれ変わらせる、全ての始まりなのです。
「Bad探し」が組織の未来を閉ざす、本当の恐ろしさ
考えてみてください。新人オペレーターのミスが発覚した時、私たちはどのような行動を取りがちでしょうか。本人を呼び出し、「なぜこんなことをしたんだ」「何度言ったら分かるんだ」と、その行動を「悪いこと(Bad)」として断罪し、原因を「能力の低い個人」に求めてはいないでしょうか。
この「Bad探し」の文化が蔓延した組織は、必ず深刻な病にかかっていきます。
病状1:失敗の隠蔽
「ミスをしたら、怒られる、評価が下がる」という恐怖が支配すれば、オペレーターは小さなミスや「ヒヤリハット」を報告しなくなります。「バレなければいいや」という空気が生まれ、本来であれば未然に防げたはずの小さな火種が、気づいた時には顧客からの重大なクレームという大火事になって燃え広がるのです。
病状2:挑戦の文化の消滅
新しいトークや、より良い案内の仕方を試して失敗すれば、「余計なことをした」と「Bad」の烙印を押される。そんな環境では、新人はマニュアルに書かれた以上の挑戦をしなくなります。オペレーターは思考を停止し、ただ言われたことだけをこなすようになり、組織から活力が失われていきます。
病状3:新人の早期離職と、深刻な財務的損失
常に「裁かれる」というプレッシャーの中で、安心して働くことはできません。このような減点主義の文化で、最初に組織を見限るのは、他ならぬ新人たちです。そして、この問題は単なるチームの雰囲気の話では終わりません。これは、あなたの会社の財産を静かに削り取る、経営の問題なのです。
私たちのシミュレーションによれば、新人オペレーター一人が離職するたびに、採用コスト(200,000円)と研修コスト(300,000円)を合わせて、一人あたり約50万円ものコストが失われます。もしあなたのセンターが50人規模で、業界平均である年間30%の離職率(15人)に悩んでいるとしたら、
その年間損失額は実に750万円にも上るのです。
そうです。「Bad探し」の文化は、あなたのセンターから毎年高級車一台分の現金を捨てているのと同じなのです。
「Problem」として捉え、未来の資産にする
では、どうすればいいのか。答えは、問題を「Bad」ではなく「Problem(課題)」として捉え直すことです。「Problem」とは、本来あるべき姿(To-Be)と現状(As-Is)との間に存在する「ギャップ」を指す、客観的な言葉です。ここには、善悪の判断は一切ありません。
同じ誤案内という事象も、「Problem」として捉える組織では、問いの立て方が、「誰が悪いのか?」から「なぜ、このギャップ(Problem)は発生したのか?」に変わります。この問いを立てた瞬間、犯人探しは終わり、真の「原因究明」が始まります。
「マニュアルの、あの部分の記述が分かりにくかったのではないか?」
「そもそも、研修でこのケースについて十分に触れていなかったのでは?」
「システムの画面表示が、誤解を招くようなデザインだったのでは?」
このように、問題を個人の資質から切り離し、「仕組み」の課題として捉えることで、初めて建設的な対話が生まれます。オペレーターは安心して事実を話せるようになり、SVやマネージャーは、その事実に基づいて具体的な改善策を考えることができるのです。
「Bad」を探せば、見つかるのは「犯人」だけです。しかし、「Problem」を分析すれば、そこには組織を強くするための「学び」や「改善のヒント」という、未来への資産が見つかるのです。
「評価」から「改善」へ。組織のOSを入れ替える3つのアクション
この「Problem」思考を組織に根付かせ、継続的な業務改善のサイクルを生み出すための具体的なアクションを3つご紹介します。
1.インシデントレポートのフォーマットを変える
「発生者」「反省点」といった、個人を主語にする報告書のフォーマットを今すぐやめましょう。代わりに、「①発生した事象(事実)」「②理想の状態」「③ギャップを生んだ構造的要因の仮説」「④具体的な再発防止策」といった、未来志向のフォーマットを導入します 6。これにより、報告の目的が「謝罪」から「改善提案」へと変わります。
2.「非難なき事後検証」の文化を導入する
問題が発生した際、関係者が集まり「誰がやったか」は一切問わず、「なぜそれが可能になったか」というシステムの脆弱性だけを徹底的に分析する会議体を設けましょう。この場では、失敗を正直に話すことが称賛されます。「よくぞ、この問題を見つけてくれた」と、問題をオープンにした人をヒーローにする。この文化が、失敗の隠蔽を防ぎ、組織の透明性を高めます。
3.リーダーの質問を「Why」から「What/How」へ変える
SVやリーダーが、反射的に「なぜミスしたの?(Why)」と詰問するのをやめ、「ミスが起きた時、何が見えていた?(What)」「その時、どう判断した?(How)」と、事実に焦点を当てた質問をするよう、トレーニングを行います。これにより、オペレーターは責められていると感じることなく、客観的な状況を説明しやすくなります。
年間750万円の損失を「未来への投資」に変える、本当の解決策
ここまで、「Problem」思考を組織に根付かせるための具体的なアクションをお話ししてきました。しかし、これらを明日から完璧に実行し、組織全体の「文化」として定着させるのは、決して簡単なことではありません。なぜなら、人の思考のクセは、強力な「仕組み」と「トレーニング」なしでは、すぐに元に戻ってしまうからです。
先ほどお話しした年間750万円というコスト。この止まらない出血を本気で止め、未来への投資へと転換させるには、包括的なアプローチが必要です。私たちWanderinConsultingは、この根深い課題を根本から解決するため、コールセンターの現場から生まれた専門的なプログラムをご提供します。
新人オペレーターが辞めない組織を作る「定着率改善」実践プログラム
私たちのプログラムでは、Phase 1: 診断フェーズにおいて、貴社の現状を客観的に分析し、どこで「Bad探し」が発生しているのかを特定します。そして、Phase 2: 計画フェーズとPhase 3: 実行支援フェーズを通じて、本記事でご紹介したような思考法や仕組みを貴社に合わせてカスタマイズし、全マネージャーが実践できるようなトレーニングまでを一気通貫で提供し、貴社に「人が定着する仕組み」そのものを構築します。
私たちのコンサルティングは、単なる「コスト」ではありません。企業の財務的損失を食い止め、未来の成長に繋がるリターンが明確な「投資」です。初回のご相談では、貴社の状況に合わせたROI(投資収益率)シミュレーションもご提示可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人
コンサルタント永久 圭一keiichi Nagaku
債権管理業務に計15年、コールセンター事業者2社(計13年)に在籍
SVや地方センターや在宅業務センターのセンター長等に従事後独立
保有資格
DX推進パスポート
JDLA Deep Learning for GENERAL (G検定)
COPCリーンシックスシグマイエローベルト
- コンプライアンス・オフィサー・消費者金融コース
- ビジネスキャリア検定(労務管理)