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すべてを正確に言語化するAIに対し、人間は「あえて指摘しない」ことで信頼を築く。クレーム対応、セールス、デリケートな商材の事例を交え、AIには不可能な「無粋の回避」という高度な接客技術の重要性を解説します。
昨今のAI技術の進化により、顧客対応の多くを自動化しようとする動きが加速しています。AIは「正確な情報」を「迅速に」伝えることに関しては、人間を遥かに凌駕する能力を持っています。
しかし、実際の顧客対応という現場に身を置いていると、AIが得意とする「正確さ」が、かえって顧客の感情を害し、対話を台無しにしてしまう場面が多々あることに気づかされます。
■ 「正しさ」が「信頼」を壊すとき
例えば、激しいクレーム対応の場面を想像してください。
興奮した顧客が、事実とは異なる細かい間違いを織り交ぜながら主張を続けているとき、私たちはどう振る舞うでしょうか。
熟練のオペレーターであれば、いちいち「それは事実と異なります」と指摘したりはしません。まずはすべての主張を、たとえそれが誤解に基づいたものであっても受け止めます。顧客がすべてを吐き出し、冷静さを取り戻した段階で初めて、正しい情報と「今できる対応」をそっと差し出す。この「あえて間違いを指摘しない(スルーする)」という判断は、対話を成立させるための高度な技術です。
一方多くのAIは、入力された情報に誤りがあれば即座に、かつ「正確に」それを訂正しようとします。怒りに燃えている顧客に対し、AI的な「正論」をぶつけることが、火に油を注ぐ結果になるのは想像に難くありません。
■ セールスにおける「無粋」の境界線
商品のセールスの場面でも同様です。
顧客が誇らしげに自分の知識を語っているとき、その内容に微妙な勘違いが含まれていることは珍しくありません。そこで「それは違います」と指摘するのは、商売としては「無粋」の極みです。
たとえ浅い知識であっても、「よくご存知ですね」とその熱量に寄り添うことで、顧客の自己充足感は高まり、信頼関係は深まります。人間同士の会話では、相手を気分よくさせるために「あえて知らないフリをする」ことが、立派な戦略として機能するのです。
特に、デリケートな悩みに関わる商品(例えば男性の性機能向けサプリメントなど)においては、サービスを提供する側と受ける側の双方が「言葉にしないこと(暗黙の了解)」を前提として関係が成り立っています。すべてを白日の下にさらし、可視化・言語化することが、必ずしも顧客にとっての「善」ではない領域が、世の中には確実に存在するのです。
■ AI時代に人間が担うべき「グレーゾーン」
これからのコールセンターにおけるAIと人間の役割分担を考えるとき、この視点は欠かせません。情報の処理や正確な回答はAIに任せればいい。しかし、顧客のプライドを傷つけないための「忖度(そんたく)」や、関係を円滑にするための「スルー」、そして言葉の裏にある「言わせない配慮」。
こうした「無粋」を避ける技術こそが、AI時代において人間が担うべき、最も付加価値の高いコミュニケーションの領域の1つになっていくはずです。
この記事を書いた人
コンサルタント永久 圭一keiichi Nagaku
債権管理業務に計15年、コールセンター事業者2社(計13年)に在籍
SVや地方センターや在宅業務センターのセンター長等に従事後独立
保有資格
DX推進パスポート
JDLA Deep Learning for GENERAL (G検定)COPCリーンシックスシグマイエローベルト
- コンプライアンス・オフィサー・消費者金融コース
- ビジネスキャリア検定(労務管理)






