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「最新ツールを入れたのに、かえって現場が疲弊している…」その原因は機能不足ではありません。ベンダーとユーザーの間に横たわる「空白地帯」と、DX成功に不可欠な「導入前の土壌作り」について、実体験をもとに解説します。
「最新のAIツールを導入しました!これで工数は半減するはずです」
経営層やDX推進室は高らかに宣言します。しかし、数ヶ月後の現場。
「…これ、入力項目が増えただけじゃない?」
「AIの要約が信用できないから、結局全部聞き直してるよ」
最新ツールが入ったはずなのに、現場は以前より疲弊し、生産性は上がっていない。それどころか、「使いこなせない現場が悪い」という空気になり、SVとオペレーターのモチベーションは下がる一方…。
私はこれまで、そんな「不幸なDX」を数え切れないほど見てきました。なぜ、高額な投資をしたのに、現場は楽にならないのでしょうか?
その原因は、ツールの機能不足ではありません。
私のサラリーマン時代の実体験をお話ししましょう。そこに答えがあります。
実話1:「機能は完璧なのに、導入できなかったRPA」
かつて私がいた現場で、業務効率化のためにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールを導入しようとした時の話です。
ベンダーのプレゼンを聞き、デモを見ました。機能は申し分ない。「これなら定型業務を自動化できる」と確信しました。しかし、結論から言うと、導入は「断念」しました。
なぜか?
RPAを動かすためには、その前段階として「今の業務プロセスをすべて可視化し、ロボットが動けるように手順を標準化する」という膨大な「下準備」が必要だったからです。当時の私たちには、その「下準備」に割く人手も時間も、そしてノウハウもありませんでした。
「便利な道具を買うお金」はあっても、「道具を使うための準備をする体力」が現場にはなかったのです。
実話2:「ベンダーのマニュアル」は、現場の言葉ではない
また、あるクラウド型のファイル管理ツールを導入した時のことです。
ベンダーからは立派な「操作マニュアル」が提供されました。しかし、それをそのまま現場に渡しても、誰も使いこなせませんでした。
なぜなら、現場の社員のITリテラシーはバラバラであり、ベンダーが書く「一般的な用語」では理解できなかったからです。
結局、どうしたか。
私が、社内の「常識」や「文化」に合わせた言葉で、独自のマニュアルをゼロから作り直しました。
「ファイルをアップロードする」ではなく、「いつものあの帳票を、この箱に入れる」と翻訳して初めて、現場は動き出したのです。
ベンダーとユーザーの間に横たわる「空白地帯」
この2つの経験から言えること。
それは、ベンダー(売り手)とユーザー(買い手)の間には、誰も埋めようとしない巨大な「空白地帯」があるということです。
ベンダーは言います。
「機能は提供しました。マニュアルも渡しました。あとは御社で活用してください」
ユーザー(現場)は言います。
「業務の整理なんてできないし、マニュアルは難しくて読めません」
この「ボタンの掛け違い」を放置したまま導入を強行すれば、事故(運用崩壊)が起きるのは当たり前です。多くの企業では「ツールを買えば、勝手に業務が楽になる」という幻想を抱いたまま、この「空白地帯」を飛び越えようとして、谷底に落ちていくのです。
「空白」を埋めるのは、ツールではなく「人」
では、どうすれば成功するのか?答えはシンプルです。
「ツールを入れる前に、土壌(組織)を耕すこと」です。
- RPAを入れる前に、泥臭く業務フローを書き出し、無駄を削ぎ落とす(可視化)。
- マニュアルを渡す前に、現場のITリテラシーに合わせて「言葉」を翻訳する(定着支援)。
この「泥臭い人の手による準備」なくして、DXの成功はありません。
ベンダーの皆様
「機能はいいのに、なぜか導入が進まない、解約される」とお悩みなら、顧客がこの「下準備」で躓いていないか、見てあげてください。
ユーザー企業の皆様
「ツールを入れたのに効果が出ない」とお嘆きなら、ツールのせいにする前に、自社の「受け入れ態勢」を見直してみてください。
AIやツールは、あくまで「道具」です。それを使いこなし、価値を生み出すのは、いつだって現場の「人」なのです。
この記事を書いた人
コンサルタント永久 圭一keiichi Nagaku
債権管理業務に計15年、コールセンター事業者2社(計13年)に在籍
SVや地方センターや在宅業務センターのセンター長等に従事後独立
保有資格
DX推進パスポート
JDLA Deep Learning for GENERAL (G検定)COPCリーンシックスシグマイエローベルト
- コンプライアンス・オフィサー・消費者金融コース
- ビジネスキャリア検定(労務管理)






